Sunday, September 26, 2010

アメリカの医学部への道


This is a (heavily peer-edited) Japanese essay I wrote earlier this year.

やっと来ました。8ヶ月の間不安と緊張と希望とが入り交じり、びくびくしながら待っていた返事。全米各地の医学部8校に受験したのは大学卒業後の2009年の夏。全国統計 によると、10人が複数の医学部を受験した場合、約4名しか入学する事ができません。実際に私がいたプリンストン大学では、医学部志望者の~94%はどこかの医学部に入学する事ができるのですが、アイビーリーグの大学を出たからといって安心してはいられません。そんなことを8ヶ月いろいろと悩みながら、今年の2月にやっと来ました:第1志望校からの合格通知。

日本とアメリカの医学部進学で一番違うところは、日本では高校卒業後に6年間の医学部に進むことに対して、アメリカでは4年制の大学を卒業してからさらに4年間の医学部に行くところです。つまり大学の卒業証がないかぎり医学部には行けません。また大学卒業後すぐに医学部に行く人もいれば、何年か働いたり医学の知識を深めてから医学部に受験する人もいます。

私の場合は、基礎生物医学関係の研究経験が足りなかった為、医学部を受験する前に第一志望の医学部の基礎研究室で、1年間技術員として働きました。もう一つ大きな違いは、医学部は大学受験と同様に何校でも受験することができるということです。 高校3年の時、私は18校の大学を受験しました。医学部受験は学部受験に比べて費用 (interview guide) がかかるので一般的には510校に出願しますが、人によっては20校も受験することがあります。ですからすべて失敗に終わる場合や、逆に受験校にすべて合格する場合もあるのです。様々な大学の難易度統計をみれば、自分が合格圏に入っているかどうかはだいたい予想が出来ますが、自分の結果を確実に当てることは不可能です。なぜなら医学部の入試委員会は受験生を個別に評価し、その医学部にとって最も有益と思われる受験生を選ぶからです。つまり、アメリカの医学部は一日の試験結果だけで合格か不合格を決めるのではなく、一人一人の経験,才能、学習能力を評価し医者としての道を与えるのです。

それでも医学部に受かる為にはいくつか要件があります。まず、医学部進学に必須な科目を多く履修しなければなりません。しかし専攻自体は、ひとそれぞれ興味がある、又は得意で良い成績が取れると思われる科を選ぶことができます。学部の時点で医学部進学希望者の半数が理系と文系とに分かれているのも特徴です。しかし、生物学から物理学までの幅広い高度な科学の授業や英文学も取らないといけません。医学部希望者の必須授業は、医学部で将来成功できるかどうかを篩にかけるために、必要以上に授業内容を難しくし、試験を厳しくしているらしいという噂もあります。4年間の平均成績(GPA)は入試査員会にとってとても重要な要素で、大学での成績がほとんどAの範囲でなければまず医学部には受からないといわれています。ですから受験生は大学4年間良い成績を保つ為に死にもの狂いで勉強します。医学部必須科目の授業は医学部をめざす学生の集まりで、激しい競争でした。

大学での成績以外に必要なのは、自分の実力と能力を証明できる教授や課外活動のスーパーバイザーからの推薦状。できれば35通の推薦状を頼み、その中の最低2通は大学の教授でないといけません。私の大学では卒論指導者が第一推薦者になることが一般的です。そして公式な条件ではないのですが、課外活動として病院でインターンかボランティアをするのも当たり前です。私は大学の近くにある病院のガン病棟で2年間毎週1時間から3時間ボランティアをしました。医者の世界をもっと知る為に、いろいろ専門の医者の下で彼らの仕事を見学しました。医者が働く場を知らないで医者になりたいと宣言する受験生の言葉はあまり信用されません。

そして最後に、受験生が一番恐れているのが医学部の全国標準入試(MCATMedical College Admissions Test). MCATは近年コンピューター化され、約5時間の試験です。内容は4に分かれており、物理化学(70分)、生物学(70分)、国語(60分)、小論文2つ(60分)となっています。試験では必須科目で得た知識を評価されます。試験結果は3年間有効なので、個人的なスケジュールといつ医学部に受験したいかを考慮しテストを受ける計画を立てないといけません。私は大学3年生の夏に卒論の研究をしながらテスト勉強をし、4年生が始まる秋学期の直前に受けました。結果は残念ながら自分では納得の出来ない点でした。もう一度卒業後に受けることも考えましたが、大学最後の期末試験と卒論でエネルギーを使い果たしてしまって、再び教科書を開く動機と意欲がなく、結局その時点のスコアで受験することにしました。その選択は今から考えてみると大きな間違いでした。医学部入試委員会ははじめにMCATの結果とGPAを考慮します。医学部によってMCATの点、GPA,あるいは二つの複合スコアを見て足切りを行います。

私のGPAは高い方でしたが、MCATの点はそれに見合った成績ではありませんでした。 すべてはあとの祭りですが、もう少し点が良かったならばもっと州外のいろいろな医学部も目指せたと思うし、8ヶ月の長い間やきもきしながら待つ必要もなかっただろうと思います。一旦医者になるという決意をした以上、疲れてやる気がない時も頑張って精一杯努力をしないといけないということを、この苦しい経験を通して学ぶことができました。

これらの受験のための要件は受験生に共通であっても、医学部へ向かう道はひとそれぞれ異なります。大事なことは、入試委員会の審査官が受験者の履歴書を見て、その人が将来医学の世界で成功するというイメージを想像できるかどうかです。医学と医療に対する情熱を持っている事が大切です。それを体得し表現できるようになる為に、学生は早くから臨床研究をしたり発展途上国へ行ってボランティアをします。しかし医学部は、学生の多様性も重視し、医療関係以外の点で一生懸命頑張る学生も評価されます。そして、人生の様々な領域で深い経験をしてきた人、大変な試練を乗り越えられた人も高く評価されます。私の場合医者になる決意をしたのが大学3年の初めの頃で比較的に遅い方でした。それまで私は色々な経験をしたくて、動物園の研究者の元でインターンをしたり、バミューダで海洋生物学を学んだり、大学のアジア文化団体の委員長をしたりしました。多様な私の履歴書の中で大学の四年間ずっと続けた活動もありました。一つ目は大学の霊長類研究所で四年間働いた事。卒業研究も同じ研究室を選び、マントヒヒの行動学を学ぶために、大学4年の冬には大学の援助でケニヤに行く事も出来ました。もう一つは大学のヘルスセンターにあるセクシャルハラスメント被害者の為の学生カウンセラーとして働き、1年その支援団体の学生会長にもなりました。その二つの活動を通して、私は自分の科学と学習に対する熱意と他人の助けになりたいという思いを表したかったのです。

医学部受験者は出願する前に自分の経歴、成績、試験結果を見て、自分が受験に勝ち進んでいけるかどうかを吟味します。受験は医学部入学の1年前から始まります。どうしてこのように長い過程を経るのかというと、入試委員会は受験者の一人一人を吟味し、その中でさらに選りすぐった学生を面接に招待します。面接のための費用は個人負担ですから、旅費だけでもかなりの額になります。何十校も受験する学生や海外からの受験者は、軽く1万ドルを超えてしまいます。面接自体は典型的な質問(何故医者になりたいか、現在の医療制度の問題は何かなど)も聞かれるし、とても独創的で医療に直接関係ない質問も聞かれます(最近読んだ本の感想は、一番親しい友人は誰かなど)。 そして面接のあとに受験生ができることは、辛抱強くただ結果を待つのみなのです。私の場合、今年の2月についに待ちに待った返事がやってきたのです。

医学部進学を決意してから今までの自分の考えと行動を振り返ってみると、最初は医学部に受かる事だけを考えていました。本当の事を言いますと、受かる事だけが最終目的になっていたようにも思います。先が見えない不安の中でやっと返事をもらった時、安心と喜びに溢れた途端、ジワジワと医者の姿の自分を思い浮かべることができました。願っていた人生の次の段階に進められる。つまり、私は将来医者になれる。多くの患者さんそしてその人の大切な家族や友達に安らぎ、癒しと希望を与える事ができる。必死で勉強をして色々な辛い思いや大変な時期を多く乗り越えていかなければならないけれども、人の命を預けられる医者になる為には当然な事。頑張ります。まだ始まってもいない医者への道はうんと長いと思いますが、ドキドキワクワク今年の8月まで待っています。




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